こどものおいしゃさん日記 うしろすがたのしぐれてゆくか

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カテゴリ:読書( 90 )

市場原理が医療を亡ぼす アメリカの失敗

市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗
李 啓充 / / 医学書院
ISBN : 4260127284


本書には、市場原理がアメリカの医療をいかにダメにしたかが、克明に解説されている。株式会社が病院チェーン経営に参入したら何をするか、民間の医療保険会社はコスト削減しか考えず、ベンチャー企業と営利的に結びついた研究者がルールを無視し、その他諸々。

中でも、私にとっていままで全くの盲点であったのが、「負担の逆進性」の問題である。米国では負担が二重に逆進的になっているという。健康保険の自己負担分は、企業内での地位が高くなるほど安くなる。そうやって有能な人材をスカウトするネタにするんだと。重役クラスでは自己負担なしが普通だそうだ。出世するほど収入も増えるのはむこうでも同じなんだろうから、してみれば収入が増えるほどに健康保険の自己負担は減るということになる。

加えて、医療費負担の逆進性というのがある。

財力のない人ほど(無保険の人ほど)、ひとたび病気になった場合に、医師や病院から高い医療費を請求されるのである。というのも、市場原理の下では大口顧客ほど価格交渉力が強いのが当たり前なので、保険会社が医師や病院と交渉して大幅な値引きを迫ることができるのに対し、無保険患者の場合は「誰も交渉してくれる人がいない」ので、「定価」で医療費を請求されるからである。しかも、病院が決める「定価」がリーズナブルなものであればまだましなのだが、医師や病院が、どこかの国の悪徳酒場と変わらないような「法外」な料金をふっかけることが常態となっているから、無保険者にとってはたまったものではない。


なるほどそういうことになるのかと、目を開かれた思いである。どうも寡聞を恥じてばかりいるブログでよろしくないが。

要するに日本の医療に市場原理を導入してビジネスチャンス云々と生臭いことをいっている面々は、そんなことをしたら医療がめちゃくちゃになるなんて全然心配しなくて良いのである。そういう「勝ち組」な彼らは、出来高払いで医療内容に制限なし(とうぜん保険料は馬鹿高い)の金持ち用医療保険に加入する。その保険料は会社が支払うから自己負担はなし。

勝ち組じゃない私たちは医療内容制限付き(あんまり高い医療行為には保険がおりません)の廉価版医療保険に加入する。あるいは、購入できる医療保険がない。廉価版ったって勝ち組な面々とは違って自己負担分を支払わなければならず懐が実際に痛む。無保険だと痛むどころじゃ済まない。しかも、勝ち組の人らの医療保険会社が私らのよりも交渉力がタフだったりしたら、彼らの医療費を値引きした分が、我々の医療費に上乗せ請求されることになるのだ。
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by yamakaw | 2007-01-29 19:26 | 読書

明快すぎて胡散臭い「日本人のための憲法原論」

日本人のための憲法原論
小室 直樹 / / 集英社インターナショナル
ISBN : 4797671459



明快な文章ではありますがね。明快すぎて胡散臭い。

「パウロはキリストの12使徒の1人ですから(p144)」って、これだけで小室先生は新約聖書を読んでないってのが丸わかりなんだけれども。福音書のどこにパウロが出てきました?使徒どころか、パウロは当初、イエス亡き後の教団に先頭に立って迫害を加えた人物として登場するんですがね。使徒行伝にしっかり書いてありますぜ。ロマ書に始まる彼の文章を読んでも、生前のイエスに会ってないという負い目が滲み出てるじゃないですか。

こういう基本的な間違い、あるいは杜撰な単純化が一カ所でもありますと、この先生は他の章でも読者が知らないと思っていい加減な嘘を書いてるんじゃないかといちいち勘ぐったりしてしまいますね。
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by yamakaw | 2006-12-18 22:51 | 読書

本を読むわたし

本を読むわたし―My Book Report
華恵 / 筑摩書房
スコア選択: ★★★★★

・この年代の混沌とした頭の中をすっきりと書けるんだから大した文章力だと思う。

・そうでもなければ15歳で筑摩書房から本は出ない。
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by yamakaw | 2006-11-29 22:23 | 読書

わたしのなかのあなた

わたしのなかのあなた
ジョディ ピコー Jodi Picoult 川副 智子 / 早川書房
ISBN : 4152087633

重い内容だった。あんまり重くて途中で何回も休憩が必要だった。しかし重大な内容だし、だいいち面白いので、放り出すこともできなかった。「アルジャーノンに花束を」を想起させる、ずっしりと重い読後感が残った。

小説としても十分に完成していて面白いのですが、生命倫理の優れた教科書としても読めます。また、小児科の、とくに看護スタッフの皆様にはぜひ読んで頂きたい。患児の親やきょうだいってこういうふうなんだなと。すごく適確に描いてあると思います。

最後の最後になって作者自身が物語の重さに耐えかねて自壊したかのような結末でした。最後のページを先に読んではいけません。読む気が失せます。実際にはどんでん返しが2回あるので、最後のページだけ読むと、物語のいちばん美味しいところを読み落としたまま本書を放り出すことになりまねません。法廷でのどんでん返しとしては、これほど衝撃的なシーンは「極大射程」くらいしか思い当たりません。

余談ではありますが、たとえ小説のなかのことであれ、法廷で医者を尋問する弁護士を応援したのは初めてです。作者も、私生活で多少なりとも医者の恩恵に与っているとわざわざ前書きに書くくらいなら、もうちょっと医者を思慮深そうに書いて欲しいものです。

犬のあの能力については、私の貧しい臨床経験でも思い当たるふしがあります。
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by yamakaw | 2006-10-03 18:38 | 読書

買ったーーーーー

「日本沈没」の第2部が出ました。
朝刊の広告で見て、仕事が引けたら本屋に直行して買ってきました。

アマゾンからライフログ引こうと思ったんだけどまだアマゾンにも登録してませんね。
もうアマゾンから送り届けられるのにかかる時間すら惜しいと思いました。
まあ、著者のペンネームのもとになった土地に住んでる訳ですし、
その土地で大学生相手に商売してる本屋に置いてなかったら世も末だと
(いや本当に日本は沈むんじゃないかと)
思いましたが、平積みの最後の一冊で残ってました。
入手の状況としては最善ですね。やっぱりそれなりの土地に住んでるんだね。

大学のころ古本屋で見つけた「日本沈没」を読んでかなりな衝撃を受けました。
普段に当たり前と思っている、ものを考える際に無条件に前提にするような事柄が、崩壊していく。
田舎の高校から京都に出てきたばかりの無邪気な医学生にはもう贅沢すぎるような本でした。

第1部がすでに地元でも古本屋でしか入手できなくなっていた時代から、幾ら待っても第二部が世に問われる様子はなく、ときおり報じられる近影はどんどん年を召されていき、これはもう絶筆かなと失礼ながら思ってましたが。

その間に私は医者になり、阪神大震災を経験し、いまは医療崩壊のまっただ中に居るわけですが。

実はまだ読み出していません。
読み出したら徹夜になるに決まってるんで。
週末に心を落ち着けて読み始めます。
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by yamakaw | 2006-07-13 23:48 | 読書

上達の法則

上達の法則―効率のよい努力を科学する
岡本 浩一 / PHP研究所



先回に書いた上達云々の話のネタ本。というか、なんか自分で考えたことのように勘違いしてたけど。そういえばそんな本もあったと思って読み返してみたら、先回記事は全然オリジナリティが無いことが判明した。でも自分が書いたものででもあるかのように、本書には違和感がない。読むだに、そうだよなそうだよなと頷かされる。

まあ私とて多少は上達したけれども、小児科診療の上にはまだ上があるはずだし。世界が変わったかのように感じられて、ああ俺も上達したなと思っても、また次の段階で世界が変わって見えたりすると、以前の「悟り」はまだ幼いものだったなと自嘲することになったり。いやもう昔の退院サマリーなんてこっぱずかしくて読めたもんじゃないですからね。本書にも、「脱皮を重ねるようにして上達していく」という表現があるが、そういうことなんだろうなと思う。
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by yamakaw | 2006-07-09 12:09 | 読書

「誤診列島」と三枚摺り

誤診列島―ニッポンの医師はなぜミスを犯すのか
中野 次郎 / 集英社
ISBN : 4087474275
スコア選択: ※

医療問題を扱っておられる弁護士さんがブログで激賞しておられたので一読した。この弁護士さんは文体に関して私よりも寛容であられるようだというのが第1印象。語り口は読むに耐えない。真面目な話題は真面目に話すものだと思う。編集者は何をしてたんだろう。語り口が全てだと喝破した構造主義者は誰だったか。でもまあ著者の人格を腐したところでその著書の誤謬を指摘したことにはならない。上品な私はこの問題をこれ以上は追求しない。

本書を通じて、「ニッポンではこうだと聞く。じっさい私が教えた医学生はこうだった。翻ってアメリカではこういう制度になっている。じっさい私が若い頃はこうだった。(だからアメリカの医療はすばらしい。ニッポンはダメだ)」という論調であった。じっさい、この人が伝聞された「ニッポン」と呼ばれる地域の医療情勢は悲惨だ。いったいこのニッポンという地域は地球の何処にあるんだろう。近寄りたくないものだ。私は日本国で医師をしてて本当に良かった。でもアメリカでも、そんな素晴らしい医療を行えてる国から漏れ伝わる悲惨な状況ってのはどうなのよと思うけど。

むろん、本書のニッポン医療批判を、われわれ日本国の医師も、他山の石として参考にするべき点は多々ある。特に、アメリカの開業医は病院に患者を入院させた後も自分が主治医として治療を続行するというが、この制度が医療の水準を維持するのに一役買っているという。この点が最も興味深かった。病院もどの開業医からでも引き受けるというのではなく、ある一定水準の診療能力を持った開業医と認めない限り入院特権を与えない。どこの病院に入院特権を持ってるってのが開業医のステータスなんだそうだ。

リスクマネージメントな面もある。病院としては、ヤブな開業医のヘボい外来診療のツケを払わされてはたまらない。開業医もまた、自分の患者を入院させた病院で事故を起こされては堪らない。互いに外部の眼で監視することになる。実際に何かあったら、その責任の所在を明らかにしないと自分に火の粉が降り掛かるのだし。

ようは「三枚摺り」なんだよな、これ。完璧な平面を作る方法ってやつ。平面を作るには素材をすり合わせて凹凸を取り除けばよいのだが、二枚ですり合わせると片方が凹・他方が凸の曲面になるかもしれない。でも素材を3枚用意して、どの二枚を選択してすり合わせてもきれいにすり合うように加工したら、そのすり合わされた平面は完全な平面になる。
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by yamakaw | 2006-06-14 21:57 | 読書

終末のフール

終末のフール
伊坂 幸太郎 / 集英社
ISBN : 4087748030

あと3年で世界が滅ぶという状況で、それでも幸せだと言い切る人として、重い病気のお子さんを持った父親が登場する。

「小惑星が降ってきて、あと三年で終わるんだ。みんな一緒だ。そうだろ? そりゃ、怖いぜ。でも、俺たちの不安は消えた。俺たちはたぶん、リキと一緒に死ぬだろ。っつうかさ、みんな一緒だろ。そう思ったら、すげえ楽になったんだ。」


もしも3年後に世界が滅ぶとなったら、息子に将来の就労とか自立とか言うことを考える必然性がなくなる。そうなったら息子にどうするだろうかと自問してみる。育成学級にやるのを止めるだろうか。好きな折り紙や工作や機関車に没頭させて過ごさせるだろうか。

障害児教育は将来の就労のために現在を犠牲にするばかりのものではなかろう。その子が成人するまでに世界が滅亡するとなったら継続する意味を失うような、そういう、現在のその子に対して意味を持たない療育なら、たとえ世界が滅びなくとも、あんまり価値が高くはなさそうな気がする。

実際には自閉症児への教育は、そのまま現在の生活への支援であって欲しいものだと思う。定型発達の多数派が運営する文化の中で、現在を暮らしやすくすることが、そのまま将来にも繋がるようなもの。 TEACCHにはそういう理想があるんだと思っている。だから、例えば3年後に世界が滅ぶとなっても、その3年間のためにTEACCHプログラムは続くんだろうと思う。そして、もしかして滅亡が誤報であって世界が存続するというどんでん返しがあったとしても、それほど大きなぶれは生じないだろうと思う。

そうは言っても、やっぱり将来の就労を考えなくて済むってのは気楽だろうなと思う。一種の麻薬的な誘惑を感じてしまう。生活を覆うもやもやのかなりの部分が拭い去れそうに思う。シンプルに現在の息子の良さだけを見て生活できそうな気がする。案外とそれは幸せで貴重な日々になりそうな気がする。自分も案外とこの(土屋さんという)お父さんと同じような幸せな気分を味わうかもしれない。自己憐憫で潰れさえしなければ。そして、もしも小惑星衝突が誤報だったとして、その結果息子の就労の問題が現実の懸案事項として復活してきても、そうした幸せな日々を過ごしてこられたら、それを糧に十分に対処できるような気がする。
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by yamakaw | 2006-05-15 15:37 | 読書

創傷治療の常識非常識

創傷治療の常識非常識―〈消毒とガーゼ〉撲滅宣言
夏井 睦 / 三輪書店
ISBN : 4895902021

創傷治療の常識非常識〈2〉熱傷と創感染
夏井 睦 / 三輪書店
ISBN : 4895902412

これからの創傷治療
夏井 睦 / 医学書院
ISBN : 4260122533

夏井先生の仰るとおりに外傷治療を閉鎖療法で行うと、ものすごくよく治る。実際に外傷の診療にあたる立場の臨床家には、最近はスタンダードになりつつあるんじゃないかと思う。むろん消毒とガーゼを頑迷に使い続ける人らもあるけれども、閉鎖療法の治りの良さを知ってそれでもなお意識的に消毒薬とガーゼにこだわる向きってのは少数派になりつつあるんじゃないかと思う。

実はNICUでも閉鎖療法の考え方は重宝する。極低出生体重児の皮膚はサージカルテープを剥がすだけで表皮剥離を起こしかねないほど弱い。夏井先生の本を読んだら、彼らの皮膚の処置に消毒薬やガーゼを使うのが恐くなった。彼らの脆弱な皮膚でも、よく洗浄したうえでフィルムドレッシングなどを駆使すると、傷の治る速さが全然違う。今までなにしてたんだろうと思うくらいに。リバノールなんてもうお払い箱である。

閉鎖療法に今さらケチをつける向きがあるんだろうかとも思うのだが、夏井先生の著書を拝読すると、EBMに対して先生は過剰なほどに攻撃的である。よほどエビデンス云々と陰口をたたかれてるんだろうかとご心労が偲ばれる。なに言われてもほっておけばいいのにと思う。そんな陰口をたたく奴らなんて、自分では外傷の治療なんてしないようなお偉い大先生ばかりなんだろうから。読者としては淡々と閉鎖療法の解説が述べられてあるだけで十分である。
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by yamakaw | 2006-03-20 19:08 | 読書

赤ちゃんがピタリ泣きやむ魔法のスイッチ


ハーヴェイ・カープ 土屋 京子 / 講談社
ISBN : 406211576X

生後2週間から3ヶ月くらいまでの赤ちゃんの、突然の大泣き。それまでは全く機嫌良さそうにしていたくせに、泣き出すと何をしても泣きやまない。一晩だって勢いよく泣き続けかねない勢い。この泣き方に悩まされる親御さんは多いと思う。魔法のスイッチのオンオフでこの悪夢のような大啼泣が収まってくれたらと、お思いになった親御さんもまた多いはずである。

本書は、そういう赤ちゃんを泣き止ませる方法を、具体的に解説してある。まるで魔法のスイッチを操作したかのように、泣き狂う赤ちゃんがぴたっと泣き止むという。

あまりに夢のような出来過ぎたお話で、タイトルには胡散臭い印象が拭えない。しかし内容は真っ当なものであった。決して、秘孔の突き方を解説する書物でもなく、自作の機器類や薬品を宣伝する書物でもない。代わりに、おくるみとか、適度の「騒音」とかといった、古来からの知恵を上手に解説してある。洗練されたオーソドックスという感がある。失敗しやすいポイントも丁寧に解説してあるので、独学で実習せざるを得ない新米のお母さんやお父さんにも親切な本である。

昔から、老練の小児科医や保育士には、抱くだけで赤ちゃんが泣き止むという「魔法の腕」伝説が言い伝えられる人があるが、恐らくは本書に記載された内容を長年の経験で会得し実行されておられるのだろうと思う。監修の仁志田博司先生はご自身でそう仰ってる。

無論、赤ちゃんは病気で泣き止まないこともある。さすがに腸重積で泣いている子に本書の「魔法のスイッチ」で対応していては致命的だ。本書では、本書の「魔法のスイッチ」に頼らず小児科を受診するべきなのはどういう状況であるかが簡潔かつ的確に解説してある。この解説を読むと著者は小児科医として優秀な人なのだろうなと思える。とかく「訳もなく泣き止まない」という主訴には、夜間の小児救急担当医もまた悩まされるものだが、この主訴に関するまとめとして、本書は小児科医にも勉強になる。

本書の根底には、人類の赤ちゃんは理想よりも3ヶ月早く生まれてくるという発想がある。脳が大きくなりすぎて、それ以上待つと頭が産道を通らないのだ。とりあえず下界に出てみただけの、この生後3ヶ月くらいまでの赤ちゃんは、子宮内の環境を模倣してやれば落ち着くということではないかと著者は言う。これは、普段から私たちがNICUで「ディベロップメンタルケア」とか称してあれこれ工夫している活動とも共通する。新生児科のスタッフや発達心理学の研究者には、首肯する人が多い考え方ではないかと思う。

読者諸賢には、どうしてもっと早くに本書を紹介しなかったのかと恨めしくお思いになる方もいらっしゃるのではないかと、それだけが危惧される。ご勘弁賜りたい。
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by yamakaw | 2006-03-17 21:57 | 読書