こどものおいしゃさん日記 うしろすがたのしぐれてゆくか

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「個人的な体験」大江健三郎 新潮社

午後8児頃から読み始めて、いま読み終えたところです。
読むのは2度目になります。やはり、引き込まれます。

障害児の父の心を描いてこの小説は一流です(って大江健三郎を相手になに生意気を書いてるんでしょう)。書かれるべき事が書かれるべきタイミングで書いてあります。饒舌でもなく言葉足らずでもなく。むかし息子が自閉症だと言うことをじわじわと受け止めていた頃の自分の気持ちを私にかわって回想してくれているかのような感がありました。この時はこういう気分だったなあ、という場面で先回りするかのように、その「気分」を私自身よりも巧みに言語化してありました。

自閉症は脳瘤とは違って生後すぐに明らかになる状態ではありませんから、時間的な経過には事情の違うところもありました。障害が確定する頃にはこの子は我が子だという認識はしっかりしてますから。でも基本路線は変わりませんね。自分の周りに何が起きても薄皮一枚隔たった向こうで生じている事のような気分になります。一方で、世の中の正義と平和のために闘う人々に対して感じる懸隔、そういう人々が直接の利害の及ぶ事になるととたんに見せる小市民的な保身への驚き。

大江は医者の姿もよく見てますね。最初に出てくる産院の院長や若い医者はとんでもなく無神経な、いまどきの読売新聞や朝日新聞の特集記事では患者の気持ちを考えないと真っ先に論われるようなタイプの医者なのですが、しかし俺もこうだよなあと思ってしまいます。こういう予想だにしなかった状況に出くわして奮闘した後って妙な高揚感に襲われるんです。だんだんと年を経ると赤ちゃんのご両親が大抵私よりも年下になってきてますからね。重症入院の初期処置後のご両親への説明に妙なため口きいちゃったりして。普段は私は赤ちゃんを主語にしてさえ敬語を使いますよ。彼らが特別悪い医者だと私には言えません。

この本を読み出したのは実はJohn D. Lantos の"The Lazarus Case : Life-and-Death Issues in Neonatal Intensive Care"なる書物に引用されていたからです。で、Lantos先生が引用なさっておられる小説がもう一つありまして、読むかどうかちょっと迷っています。「カラマーゾフの兄弟」なんですわ。はは。気軽に読み始めるには目方が重い。
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by yamakaw | 2004-06-24 23:56 | 読書